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File No.130807

8月5日種子島宇宙センターから、「H2B・4号機」による物資補給機「HTV(こうのとり)」の打ち上げが成功した。順調にいけば9日にISS(国際宇宙ステーション)に到着の予定である。今回のH2B打ち上げは、JAXAから三菱重工業が移管されて、初めての打ち上げである。2007年に移管されたH2Aとともに、大型ロケットは、民間企業によって運用されることになった。H2A、H2Bの打ち上げの成功率は国際標準を超え、JAXAが開発した地球周回軌道へのロケット打ち上げ技術は確立された。今後の問題は、打ち上げコストである。現在のH2Bの打ち上げ費用は約147億円、H2Aでも120億円と言われる。これは世界のロケットと比べればはるかに高い。これまでに獲得できた商業打ち上げは、たったひとつだけである。アメリカのベンチャー企業「スペースX」は、日本の半額以下で打ち上げている。ロケット打ち上げをビジネスとして運用するためにも、民間のコスト意識が必要不可欠になってきた。

8月22日には、新型の固体燃料ロケット「イプシロン」の1号機が、内之浦から打ち上げ予定である。イプシロンは、運用が終了したM5ロケットの後継機である。開発のコンセプトは「未来を切り開くロケット」。イプシロンはこのコンセプトに相応しい内容になっている。M5より少し小型になっているが、その分打ち上げの仕組みが簡素化されている。打ち上げ前の点検は、機体に人工知能を搭載し自動的に行う。発射にかかる作業は大幅に短縮され、管制作業はパソコン2台でやるという。打ち上げ費用もM5の半分ほどになる。これでロケット打ち上げの敷居が低くなり、大型ロケットとの棲み分けによる効率的な運用が可能となる。固体燃料ロケットは、日本で初めて糸川教授がペンシルロケットを打ち上げて以来、蓄積されてきた技術の粋が引き継がれている。イプシロンの開発関係者が「糸川先生の教えにしたがい、新しい技術に挑戦できることが楽しみ」と言っていた。その言葉が何よりうれしい。

「M5」の後継機が「イプシロンEPSILON」なら、H2A、H2Bの後継機は「H3(仮称)」である。H3は大型衛星はもとより、有人宇宙船の可能性も視野に入っている。18〜22年度の試験機打ち上げを目指すという。開発の主体は三菱重工業で、民間コスト意識が反映され、打ち上げ費用は、現在の半分以下の50億〜65億を想定している。そもそも日本の種子島は、北緯30度付近にあり、赤道付近から打ち上げる欧州などと比べ不利な条件にある。ビジネスとして打って出るなら、H2Aの打ち上げ技術の大きな改革が必要である。これまで自前のエンジンを使って寿命を短くしていたが、目標地点まで慣性飛行で行って分離させるなどの改良も研究もされている。開発担当者は「日本の技術を押し上げ、世界に打って出る」と気合十分である。固体燃料、液体燃料とも日本の技術は世界の最高レベルにある。世界と戦える「H3」が完成すれば、国と企業が本格的な売り込みをし、それこそ日本の経済成長の矢のひとつに加わるまでになってほしい。

宇宙開発は、米ロの競争によって発展してきた。今もその優位は変わらないが、ここにきて急激に中国が伸びてきている。去年、「神舟9号」が軌道上の「天宮1号(宇宙ステーション実験機)」とのドッキングに成功した。衛星攻撃兵器開発なども進めている。中国の宇宙開発が、軍事目的であることを考えれば、大きな脅威となる。次に戦争が起きたときには、サイバー空間とともに、宇宙空間を制したものが勝者になりうる。去年「改正宇宙機構法」が成立した。これでは「平和目的」と限定していた規定を削除し、「防衛利用」を可能とした。「宇宙基本法」でも「我が国の安全保障に資する」と明記されている。安全保障面から歓迎すべきことである。これによって、これまで米国に頼っていた「早期警戒衛星」の導入なども視野にはいってきている。「MD」や「敵基地攻撃」能力も増すに違いない。宇宙ビジネスの推進とともに、国の安全保障に資する宇宙開発が、今後の宇宙政策の要となる。




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「イプシロン」の開発報道(2007・09・07)

「H3」の開発報道(2012・05・11)

2013/09/14 「イプシロン」打ち上げ成功
「イプシロン」初号機が、14日午後2時、内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられた。約1時間後、惑星観測用の望遠鏡を搭載した衛星を予定の軌道に投入、打ち上げは成功した。今回打ち上げられた衛星は「ひさき」と命名された。
打ち上げ成功の裏には、技術の裏付けがある。「イプシロン」の部品を加工・製作した会社は「部品は金属の無垢材からミクロン単位の精度で特殊な金属を削っていく。与えられた材料を一発勝負でミスなく加工しなければならない」と語った。
一方、肝付町が用意した見学場には、前回を5千人上回る約2万人が集まった。会場からは「頑張れ」という声援が上がったという。
関係者の熱意、関係企業の精密な技術、それを応援する多くの国民が一体となった打ち上げ成功である。本格的な打ち上げビジネスとして運用される日は近い。