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File No.130602

バブルシップ(パトロール機)と、ドローン(無人偵察機)の激しいバトルが、巨大スクリーンで繰り広げられる。かつてスーパーボールが開催されたスタジアムや、エンパイア・ステート・ビルの崩れ落ちた姿で、破壊された地球を見せつける。かと思えば、山あいの自然に包まれた湖畔の山小屋のシーンでは、水と緑の豊かな地球の姿を映す。流れる雲、夕日、星空などの美しい景色は、アイスランドやハワイで撮った本物の映像だという。この美しい映像を織り込みながら、複雑なストーリーが展開していく。先日、トム・クルーズが来日したとき、「笑っていいとも」に出演していた。彼ももう50歳だという。しかし、そんなことは微塵も感じさせない。日ごろから鍛え、危険なアクションも、スタントは使わず、すべて自分でやるという。そんな真摯な姿勢がスクリーンから伝わってくる。
荒れ果てた2077年の地球。60年前、エイリアン"スカヴ"の侵略で、月は破壊され、地球は半壊した。そんな地球でジャック・ハーパー(トム・クルーズ)と、パートナーのヴィクトリア(アンドレア・ライズブロー)は、1000mの上空にあるステーション"スカイタワー"で優雅な生活している。二人に与えられた任務は、無人偵察機"ドローン"の管理をすることだった。そんなジャックは機密保全のため、5年前に記憶を消去されていた。ところが、何度となく知らない女性が夢に出てくる。任務終了を間近にしたある日、パトロール中のジャックは、宇宙船が墜落するのを目撃する。指令本部の指示を無視して、現場に向かったジャックは、カプセルに眠る女性(オルガ・キュリレンコ)を救出する。彼女の乗っていた古い宇宙船は、NASAのオデッセイ号だった。女性は何故かジャックの名前を口にする。この女性はジュリアといい、ときおりジャックの夢に出てきていたあの女性だった。デルタ睡眠で60年もの間眠り続けていたジュリアが、なぜジャックを知っていたのか?
壊滅的な被害を受けた人類は、土星の衛星"タイタン"に移住したという設定になっている。設定は2077年であるが、あくまでもSFであるから、現実的にはまず月に基地をつくり、次に火星である。去年アメリカの火星探査機「キュリオシティ」が、生命の痕跡を探すため、火星の地表探査を始めた。この火星の次に生命の可能性があるのが、土星最大の衛星「タイタン」である。NASAの無人探査機「カッシーニ」は2010年、氷でできた火山に似た地形を確認した。これはタイタン内部の氷やメタン、アンモニアなどの物質が噴き出したものとみられている。タイタンは、厚い大気を持つ衛星である。大気の大部分は窒素だが、水や生命のもとになる有機物があり、生命が誕生する可能性があるという。映画の中では、人類の移住に関する詳しい内容は説明されていないが、そんなことが移住先をタイタンに設定した根拠なのかもしれない。



「オブリビオン」とは、「忘却」という意味である。ジャックは、記憶が消されている。そこに現れたジュリアによって、ジャックは人間としての心を取り戻していく。ヴィクトリアとの三角関係はどうなるのか。SFを背景に描かれるラブストーリーも映画の重要なポイントである。そもそも、断片的ではあるが、60年前の記憶が残っているジャックが何故タイムカプセルからよみがえったジュリアと年ごろが同じなのか。そこに隠された秘密がある。それが人類の存続、美しい地球を取り戻すという大きな流れにつながっていく。環境は人間の心にどう影響を与えるのか。荒れ果てて殺伐とした地球、水と緑に包まれた豊かな地球、無機質な住空間、アナログレコードを楽しむ山小屋、そんな映像の対比が、人間が人間であるためには何が必要かを意識させる。そういう意味では、むしろこの映画は、SFヒューマンドラマと言えるのかもしれない。


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この未来を、誰が予想したか。

映画
「オブリビオン」
2013/05/31公開/米・露/124分

監督:ジョセフ・コシンスキー
出演:トム・クルーズ、オルガ・キュリレンコ
土星の衛星「タイタン」に“氷の火山” 
2010/12/16新聞より