闇夜にきらめく蛾
ヒトリガ(燈取蛾)
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File No.120823

一般的に言って「蛾」のもつイメージは悪い。そういう意味では"ゴキブリ"と双璧かもしれない。ゴキブリの何とも気持ち悪いあの"てかり"。家の中をカサカサと動きまわり、時には飛んだりもする。一方「蛾」のイメージの悪さも引けを取らない。夜、灯りに集まって、麟粉をまき散らす。そもそも夜行性というのが気に入らない。夜行性だからきれいな色である必要がない。毒蛾に触るととんでもないことになる。作物を荒らし、果物の蜜を吸い取ってしまうのもいる。一体この「害虫」の存在の意味はどこにあるのかと問いたくなる。だが一夜限り花を咲かせる宵待草は、生き延びるための受粉を蛾に頼っている。九州大学箱崎キャンパスで「闇夜にきらめく蛾」という特別展示があっている。これはすでに3か月前から展示されていて、8月末で終了する。「蛾」の持つイメージの悪さから、観にいこうかどうしようかと、気持は半々だったが、"闇夜にきらめく"というタイトルに魅かれて観に行ってきた。

問題は、蛾全体のイメージを悪くしている毒蛾である。「ドクガの仲間」ではこんな説明書きがしてあった。「ツバキやサザンカを食い荒らし、毒のある毛(毒針毛)を撒き散らすことで悪名高いチャドクガもこの仲間です。幼虫は多くの種で毒を持ち、チャドクガのように、卵から成虫まで全生活史で毒針毛を持つものもいます」。ところが毒を持つ蛾は、日本の蛾のなかのほんの1%だという。蛾は日本だけでも6000種もいるというから、ごく一握りの害虫としての蛾が、全体のイメージを悪くしているとも言える。会場ではそれぞれ蛾の仲間ごとに分類して展示してあった。日本産だけでなく、ヨーロッパ、アジア、アメリカ、アフリカなど世界の蛾である。東南アジアに多いマダラガ、マダガスカルにいる世界で一番美しい蛾・ニシキツバメ、南米のカノコガ、アフリカ最大の蛾・マダガスカルオオヤママユなどなどである。これらは色もきれいなものも多く、蛾のイメージを大きく変えてくれるものだった。

"夜の蝶"とは言うが"夜の蛾"とは言わない。「蛾」のマイナスイメージに対して「蝶」のイメージは随分いい。きれいな色で、ひらひらとはばたき、花から花へと優雅に飛び回る。明るい太陽の下で、咲き乱れる花々の受粉を助ける。昼間に飛び回るので、標本の採集もやりやすく、採集する人も多い。これだけのイメージの差がありながら、「蝶」と「蛾」の生物学上の分類に違いがないという。鱗翅(りんし)目の昆虫のうち、チョウ科を除いた他が「蛾」と言うらしいのだが、分かったようで分からない話である。"昼、飛んでいる蛾が「蝶」"で"夜、飛んでいる蝶が「蛾」"というのはどうだろう。ますます混乱してきた。実を言うと私はイメージのいい蝶すらも、これまで少々苦手だった。しかし、キャッチコピーというのは効果があるものだ。この私が蛾の展示を観に行ったのだから。

九大が保有する日本産のチョウ目(チョウ・ガ類)の標本点数は約200000点に及ぶ。今回の展示はそのほんの一部である。九大には創立から100年が経ち、膨大な標本・資料が蓄積されている。その中には世界をリードする貴重なものも多いという。ところが、それを一元的に管理する施設がない。今回の展示室も、入口は普通の部屋と何ら変わらず、案内がなければ分からないような部屋だった。そこで今、伊都キャンパスへの移転を機に、伊都キャンパスの中心に博物館をつくる構想がある。その博物館に保存してほしい標本・資料は750万点もあるという。問題は削減され続ける文教費である。民主党の事業仕訳もひどいものだった。こうなったら、政治屋どもが不正し放題の政調費を、すべて文教費に回そう。博物館で一元管理できれば、今後の研究の貴重な資料になるのはもちろんだが、小・中学生の中にはこれをきっかけに研究の道に進む優秀な人材が出てくるかもしれない。





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特別展示・ポスター」
九州大学総合研究博物館

ニシキツバメ」
マダガスカルにいる 世界で一番美しい蛾

「マダガスカルオオヤママユ
アフリカ地域最大の蛾

尚、「ヒトリガの仲間」の説明にはこう書いてあった。
“燈取蛾”と書き、昔行燈(あんどん)に集まったことからこの名前があります。アジアやヨーロッパにおり、飛んで火に入る夏の虫の代表と言えます。