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File No.120818

NASAが昨年11月打ち上げた火星探査機「キュリオシティ」が、8月6日無事火星へ到着した。この着陸は「恐怖の7分間」と呼ばれ、NASA史上最も困難なミッションと言われていた。着陸成功の瞬間、管制室は喜びに包まれた、と言うより"狂喜乱舞"状態だった。そのシーンからだけでも今回の軟着陸がいかに困難なものだったか分かる。重さ1t、時速2万1千kmの機体を、7分間で減速し着陸させる。その方法は、噴射しながら空中に浮かぶ下降装置から、軽自動車ほどの探査車をワイヤーで吊り下げて地上に下ろすというものだった。探査車「キュリオシティ」は、今後2年間にわたり、生命の痕跡を探る。探査車は早速、着陸地点"ゲイルクレーター"から、極めて高画質の画像を送ってきている。オバマ大統領は、祝福の演説の中で、日本など8カ国の名を挙げて「国際パートナーの貢献にも感謝したい」と言った。これはJAXAが、探査車の着陸地点選定に関わっていたからである。

NASAは会見で「間違いなく火星なんだが、カリフォルニアの砂漠じゃないかと思われても仕方がない」と言っていた。送られてきた画像は、荒涼とした砂漠である。火星の大気は地球の100分の1、夜は氷点下128度まで下がり、日中は強烈な紫外線と放射線が降り注ぐ。しかし、MROやスピリット、オポチュニティなどのこれまでの調査から、太古の火星に"水"があった痕跡が確認されている。たとえば水の底で形成される"堆積岩"や、水に浸かった岩の中で形成される"ヘマタイト"などである。40億年前の火星は、広大な海と陸が広がる地球に似た星だった。その海岸線は今も確認できる。その水は今、氷として地下に眠っている。それも、そんなに深いところではない。中緯度では、地下約50cmのところに氷としてあるという。火星の表面に、夏現れて、冬は消える模様がある。これは夏、地下の凍りが解けて地表に現れるためではないかと考えられている。

1990年に公開された「トータル・リコール」という映画がある。アーノルド・シュワルツェネッガー主演の映画で、物語の舞台は"火星"だった。西暦2084年、ダグ・クエイド(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、なぜか火星への思いが募るばかりだった。それはクエイドの記憶から火星が消されていたからだった。火星は地球の植民地として、レアアースを産出していた。火星の人々は、統治するコーヘイゲンに空気の供給を握られ、ただ従うしかない状態だった。クエイドは、そのコーヘイゲンの息の根を止める記憶が消されていたのだ。圧政者には必ずレジスタンスがいる。クエイドはレジスタンスの協力のもと、コーヘイゲンを倒す。クエイドの消されていた記憶とは、火星の水から、人々が自由に外に出て生きられるだけの酸素を取り出す装置の存在だった。最近の分析では、火星の地下に眠っている氷が、火星全体を覆うとすれば、その高さは11mにもなるという。

今回のキュリオシティの目的は「地球外生命体の発見」である。太古の昔、地球に似た環境だったとされる火星である。今なお地下には、水の氷が大量に眠っている。生命体が存在する可能性は極めて高い。人間にとっては、過酷な環境であっても、その環境で生きる生命体があってもおかしくない。あるいは、生命の痕跡でもいい。もし有機物が見つかるなら、我々は火星から来た可能性を否定できない。「我々はどこから来たのか」という永遠のテーマを解決する手掛かりになる。かりに地球の生命体とまったく違う成り立ちの生命体が発見されたとしても、それはそれで、宇宙に多様な生命体の存在を証明することになる。今日、キュリオシティの最初の調査対象が決まった。着陸地点から3mのところにある直径7.5cmの石で、レーザーを照射し、石から出る気体などを科学分析する。この後、移動し3種類の地層がある地点の土壌を分析する予定という。キュリオシティの探査成果が、生命の起源を解き明かす。

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キュリオシティが撮影したゲイルクレータ

キュリオシティ着陸の様子

映画「トータル・リコール」

1990年公開/1時間53分

監督:ポール・バーホーベン
主演:アーノルド・シュワルツェネッガー

海岸を散歩していたら
火星人に出会った