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File No.120814

連日、熱い戦いが繰り広げられたロンドン五輪が、無事終了した。日本の獲得メダル数は、「金」こそ目標に届かなかったものの、合計38個とアテネ大会を超え史上最多となった。しかしメダルには関係なく、そこには心からの笑顔、真実の涙、それに対する温かい拍手があった。実にいいものである。オリンピックに出場する人たちは、たぐいまれな能力の持ち主である。その人のたゆまぬ努力で、親からもらった素質を花開かせる。それは長く厳しい節制と激しい肉体的な苦痛に耐え抜き、かつ精神的重圧に打ち勝たねばならない。ボクシングの村田選手はこう言った。「努力したから報われるわけじゃない。でも努力しないと報われない」。けだし名言である。オリンピック出場選手全員が、日本の頂点に立つ人ばかりである。そういう意味からもオリンピック出場選手全員が、日本のメダリストでもある。いつもの事ながら、結果の如何に関わらず、胸を張って堂々と帰ってきてほしいと思っている。

男子バスケットボールでは、アメリカチームが前回に続きスペインを下して優勝した。米国チームは、NBAのスーパースターたちで組まれたチームである。USAのユニフォームを着たレブロンがいた。コービーがいた。デュラントがいた。ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)では、レブロン・ジェームズは1675万人、コービー・ブライアントは、1360万人のフォロワーがいるという。さすがに人気選手はレベルが違う。第3Qでは、デュラントからのロングパスで、レブロンがダンク。この時は会場が大いに沸いた。拮抗した戦況を抜け出したのは、レブロンのシュートだった。第4Qの残り3分、スペインがデュラントに気を取られ、フリーになったレブロンがダンク。残り2分、3ポイントラインまで下がって放ったレブロンの3ポイントで突き放した。試合経過としては、抜きつ抜かれつの面白い内容だったが、やはり地力に勝るアメリカが世界ランキング通り優勝した。

テレビで現地と日本を結んだ放映で、タイムラグが見られるのはいつものことである。日本のスタジオから話しかけても数秒現地の反応がない。アナウンサーや、レポーターたちは、それを十分承知しながらも、しばしばやり取りでかみ合わないシーンがある。私の家では、居間のテレビと私の部屋のテレビで、同じチャンネルをかけているのに、微妙にズレて聞こえる。我々は、常にタイムラグに囲まれて生きている。夜空に輝く星の光も、遠い星なら100数十億年の昔、放たれた光を我々は見ている。現在存在するかどうかも分からない。光にも速度がある。ロンドンから送られた映像は、数秒過去の映像である。極端に言えば、目の前にいる人と会話していても、我々は一瞬過去の映像と音声に反応している。その過去とは数億分の1秒かもしれない。常に過去しか見えず、過去の音声しか聞こえいてない。我々には永遠に「LIVE」は存在しないのである。

今回のオリンピックで話題になったのは、全競技に女性が参加できたことである。日本選手団は、女子選手が男子選手の人数を上回ったという。必然的に女子選手の活躍が目立った。女性とは言え、柔道女子57キロ級の松本選手の試合前の表情には圧倒された。歯をむき出し、射るような眼差しは、あたかも野獣が命がけの戦いに挑むようでもあった。ところが、戦いが終わるとパフェが食べたい可愛らしい笑顔の女性だった。笑顔といえば、重量挙げの八木かなえ選手の笑顔もよかった。トータル191kgを挙げてあの笑顔なんだからまいった。アーチェリーの蟹江選手の笑顔もいい。ムードメーカーだという彼女は、タレントの柳原可奈子に似て、笑顔がよく似合う。卓球の愛ちゃんの涙と笑顔がまたよかったなあ。彼女は「観客席のみんなの嬉しそうな顔に、私もうれしくなった」と言った。いい言葉だ。彼女のこれまでの道のりを、日本のみんなが知っている。だから観客席の笑顔にも、そんな心がにじみ出ていたはずだ。そんな女子選手たちの活躍が光ったロンドン五輪だった。





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