映画「外事警察」を観て

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外事警察とは、警視庁公安部外事課のことである。日本の国益を守るための諜報活動を行う"裏の警察"とも言われる。"公安の魔物"と呼ばれている住本は、冷静かつ非情な決断を迷わず下す。この住本役を、渡部篤郎が好演している。この映画の緊迫感や重厚さは、渡部篤郎のみならず脇を固める遠藤憲一、田中泯、石橋凌などの共演陣によるところも大きい。女優陣もいい。住本に外堀を埋められ、心理的に追い詰められ、葛藤しながら民間人スパイとして働く香織役の真木よう子。新人から2年、成長した松沢陽菜役の尾野真千子。「本質は偽装結婚の報酬よ。あなたは借金返済のために国籍を売ったのよ」と陽菜が香織に激しく迫る。尾野真千子は「火の魚」以来、気になる女優ではある。キャスティングの妙が、この映画に深みを与えている。

渡部篤郎

住本健司
公安の魔物と言われる冷静かつ非情な人物

濃縮ウランが朝鮮半島から流出したという情報がCIAから入ってきた。時を同じくして震災の混乱の中、東北の大学のレーザー研究室から機密ファイルが盗まれた。万一、流出した濃縮ウランと、軍事機密(起爆装置)を盗んだ犯人が同じであれば、広島、長崎を超える核爆弾が可能になる。日本に核爆弾が存在する可能性に過敏に反応する政府。警視庁公安部外事課の住本(渡部篤郎)は、かつて原子力技術のエリート科学者だった徐昌義(田中泯)を日本に連れ帰ることに成功する。そんな中、住本班は、奥田貿易という会社が不正輸出に関与していることを突き止める。住本は、奥田交易の社長夫人・奥田香織(真木よう子)を、民間人スパイとして利用するため松沢陽菜(尾野真千子)を近づかせる。住本は徹底的に調べ上げたデータをもとに、香織を追い詰めていく。

真木よう子

奥田香織
民間人スパイとして外事警察に取り込まれ協力する

先日警視庁は、中国大使館の一等書記官に、情報漏洩の疑惑で出頭要請した。これはまさしく警視庁公安部の担当である。警視庁は、以前からこの人物の動向を注視してきたという。それは書記官が、元中国人民解放軍の諜報機関である「総参謀部」に所属していた人物だったからである。この書記官は積極的なタイプではなく、何かあっても最後についてくるかどうかぐらいのイメージだったという。工作員とはそういうものである。松沢陽菜が外事四課に引き抜かれた理由は「目立たないから」だった。書記官を知る人たちは「好感がもてるタイプ」と口を揃えるが、日本の危機感の無さは、これまでも言われ続けてきたことである。日本にはスパイ防止の法律が無い。映画の中では、こんなセリフが出てくる。「日本の先端技術は、野ざらしだからね」どうやら日本の先端技術は“ご自由にお持ちください”状態らしい。



尾野真千子

松沢陽菜
香織を激しく責め立てるほど陽菜が成長している

「次は自白剤を使う。死ぬことに変わりない」と、命に危険があろうと冷たく切り捨てる。カネに困っていれば、カネで釣る。「その目は公安がヒトをだます時の目だ」。必要ならどこまでもウソをつき通す。弱みがあれば、徹底的にそこを突き、心のすき間に入り込む。怒りこそが人を突き動かす原動力になる。「それ以上言ったら殺す!」「そうだ怒れ。その怒りを、現実を切り拓くために使ってみろ」。非情かつ冷静に違法ぎりぎりの手段を使う。それが外事警察の姿である。徐が言う。「あんたが必死で守ろうとしている国益は何なんだ。言ってみろ」。国益とは、日本の領土・領空・領海であり、国民の生命、財産である。今回は震災という特殊事情はあったにせよ、日本の情報管理のゆるさが引き起こした核テロの脅威である。今回外事警察が守った国益は、日本の国際社会における「名誉」だったと言えるかもしれない。

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外事警察
〜その男に騙されるな〜

2012年6月公開/128分

監督:堀切園健太郎
出演:(上記の他) 遠藤憲一、田中泯、石橋凌ほか