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File No.120401

先日テレビで「センター・オブ・ジ・アース」という映画を放映していた。これはジュール・ベルヌの「地底旅行」がベースになっている。ジュール・ベルヌの冒険小説は、私が少年だったころ夢中になって読んだものだ。映画の設定では、地底旅行をした人が生還後、ジュール・ベルヌにその光景を話したということになっている。科学者のトレバーは、10年前消息を絶った兄(地殻物理学者)の愛読書「地底旅行」に書き込まれていたメモを発見する。これをヒントにトレバーと甥のショーンは、山岳ガイドのハンナの案内で、アイスランドの地震調査装置の異常を確かめるため現地行く。ところが激しい落雷で洞窟に閉じ込められてしまう。ここから三人の地底旅行が始まる。地底深くに広がる驚異の別世界。立ちはだかる嵐の海、襲ってくる恐竜や原始の植物。ショーンの父は、地上に戻る手がかりも残しておいてくれた。数々の難関を切り抜け、最後はジュール・ベルヌの原作と同様、イタリアのヴェスヴィオ火山から生還する。

三人が地底で遭遇する原始の植物が面白い。巨大なシダ類が繁り、巨大タンポポの綿毛が、幻想的に舞う。なかでも衝撃的なのが巨大"ハエトリソウ"が襲う場面である。ハエトリソウは、植物のなかでもかなり動物的である。触覚に獲物が触れると、捕虫葉をすばやく閉じて獲物を取り込む。この捕虫葉を、0.5秒という速さで閉じる俊敏さはとても植物とは思えない。この仕組みを調べてみた。感覚毛が感じた刺激で電位が生じる。その伝達性電位は、運動体細胞の活動電位を誘導する。それにより捕虫葉の内側の細胞の膨圧が低下し、外側の膨圧が急激に高くなり捕虫葉が閉じる。つまり、この速さは電気的な速さなのである。取り込んだ獲物は、多量に分泌された消化酵素でじっくり一週間ほどかけて消化していく。まるで植物の形をした肉食動物である。映画の中では、トレバーは巨大な捕虫葉と戦い、ハンナは茎に絞殺されそうになる。しかしいくらどう猛でも、如何せん植物である。最後は根を引き抜かれて力尽きる。

以前私は、ここの随筆で植物についてこう書いた。「生き延びる知恵は植物もまた同じである。種を保存するために、より高く伸びて太陽の光を浴び、より遠くへ種子や胞子を飛ばそうとする。・・・地球上の生物の成り立ちは皆同じである。遺伝子レベルで考えるなら、菜食主義は、人間の勝手な感覚によるものだ」「この花々は、一瞬の時を精一杯咲き誇り、甘い蜜を用意して、昆虫など小動物を惹きつける。それは種を保存するため、細胞が考え出した見事な方策である」「"生命の維持"とは即ち"戦い"である」。植物は光合成により、自らのエネルギーを作り出す。だから動物のように、栄養源を他に求めて動き回る必要がない。しかし、効率のよい光合成を行おうとすれば、海底より陸上のほうがはるかにいい。植物は生きるために、あえて過酷な陸上へ這いあがり、厳しい環境に適応しながら種の保存を図ってきた。植物は動けないからこそ、過酷な環境を生き延びるための見事な方策を身につけていったのである。

植物はエネルギーをつくる基として、なぜ二酸化炭素を使ったのか。理由は簡単である。原始の地球はほとんど二酸化炭素で覆われていたからである。つまり、環境に応じて生命が生まれ、環境が変われば、それに適応して生き延びる。適応できなければその生命は絶滅していく。それが自然の摂理である。過酷な環境こそが、適応力を高め、生存競争を勝ち抜かせる。翻って人類を見るに、事は深刻である。長生きさせることが、本来の生態系を崩し、異常な清潔が、抵抗力を失わせる。乳幼児の死亡率が低くなったことで、子供を産む数が減る。虎の子の子供を温室状態で育て、免疫のない高学歴の若者が大量に巣立っていく。せっかく高い倍率を勝ち抜いて就職しても、少しでも気に入らないとすぐ辞めてしまう。つまり、環境に適応できないのである。植物であるにもかかわらずハエトリソウは、動物をエネルギー源として生存競争を勝ち抜いてきた。それに引き換え、生態系を崩し、適応力を無くした人類は、このままだと絶滅へまっしぐらである。
何とかせねば。



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2012/04/03 セイタカアワダチソウ
 外来植物であるセイタカアワダチソウは、その繁殖力の強さと、周囲の植物を駆逐してしまうことから、要注意外来生物に指定されている。この強烈な生命力はまぎれもなく、種の保存のために獲得した能力である。地下では強力に根を張り、地上では膨大な量の種子をまき散らす。それに加えて、周囲の植物を成長させない化学物質を分泌し、その場所を制覇する。まさに“鬼に金棒”である。これで一気に生態系が壊されてしまう。
 ところが最近、この最強のセイタカアワダチソウを駆除する方法が見つかったという。農業環境技術研究所(つくば市)で開発した方法は、塩化アルミニウムの粉末を撒いて土を酸性化するというもの。さしものセイタカアワダチソウも、酸性の土壌には勝てないらしい。逆にその土地では在来植物75種の生育が確認できたというからすばらしい。まだ実験段階で、ミミズや土壌微生物などへの影響も調べていくという。

 新しく開発された駆除方法とは別に、セイタカアワダチソウが分泌した化学物質で、アワダチソウ自身が発芽できないという現象も起こっているらしい。他を排除する能力が強力であるが故に、自分の首も絞めているのである。言ってみれば、セイタカアワダチソウは、植物界におけるホモサピエンスである。