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File No.120207

今日、ネットニュースをチェックしていたら「和食を世界無形文化遺産に」という記事を見つけた。それはユネスコの世界無形文化遺産に「日本食」を登録するため、文化審議会が提案書(案)を了承したというものだった。申請するタイトルは「和食、日本人の伝統的な食文化」である。その意義を「自然尊重の精神を表現した社会的習慣」とし、(1)新鮮で多様な食材(2)米食を中心とした栄養バランスに優れた構成(3)自然の美しさを表現、をその特徴にあげている。日本には四季があり、日本人はその自然が見せる豊かな表情と共に生きてきた。日本人の繊細で優美な感性は、その自然によって育まれてきたものである。秋の夜の虫の声は、外国人にとっては雑音でしかないが、日本人は静かに耳を傾け季節を楽しむ。自然を尊重するその精神は、日本が生み出したすべての文化に一貫して流れている。当然「和食」もその伝統的な文化のひとつである。四季折々の豊かな食材をいただき、秋にはその恵みに感謝し祭りを奉納するのである。

日本のように豊かな自然のある国は世界でも珍しい。それは太陽系の中で、地球が奇跡的な位置・条件に恵まれたのと通じるところがある。太陽から絶妙な位置にあり、大気に包まれ、豊かな水をたたえ、木星が隕石から守ってくれている。その地球にあって、同じように日本列島は奇跡的な位置、条件に恵まれたと言っていい。豊かな自然を作り出す大きな要素は海に囲まれていることである。数千万年前、ユーラシア大陸から切り離されたその時、日本独自の文化が生まれる土台ができたのである。日本列島を取り巻く海流は、見方によっては地球を取り巻く磁場に似てなくもない(?)。その海からのぼる大量の水蒸気を、偏西風が運んで雨を降らせ、田畑や森を潤し、生き生きとした緑を育てる。そこに多種多様な動物を育んできた。また海の恵みも豊かである。南からの暖かい黒潮、北からの冷たい親潮に取り巻かれ、多種多様な海の恵みを受けてきた。陸と海、その四季の移ろいが、研ぎ澄まされた日本文化を生み出す環境をつくってきたのである。

衣食住は自然環境に大きく影響を受ける。“住”における日本は、古代より木や紙、泥といった自然の素材で作られてきた。そもそも我々庶民の住居は、竪穴式住居が始まりである。土間があって、柱があって、それを茅(かや)で覆った。傾斜のついた屋根には、雨の多い日本らしさを見ることができる。今でこそ見なくなったが、私の小さい頃は、まだ茅葺や土壁の家が少しはあった。藤森照信という建築史家がいる。藤森氏が初めて造った建物が「神長官守矢資料館」である。藤森氏の基本的な考えは、自然の素材を使うということである。もちろん法律があるから、基礎的な部分はそれをクリアしているが、外は泥や木などが使われている。写真を見ると、あたかも昔からそこにあったように、周りの風景に溶け込んでいる。同氏の基本的な考えには、千利休の「茶室」があるようだ。その茶室こそ、縄文時代のから続く民家をイメージしている。

先日、博多の「町屋ふるさと館」に行ったら、30才代くらいの若い人形師さんが、博多人形制作の実演をしていた。横にはその人形師さんの作品が飾ってあった。その博多人形の表情は素晴らしかったが、手の表情がまた実に見事であった。この人形師さんのお父さんは、高齢ながらまだ現役だそうだが、すでに立派な後継者が育っている。全ての伝統文化は、それを守り伝えていくことが非常に重要である。今回登録しようとしている日本の食文化も、ユネスコは「日本食文化が文化としてきちんと意識されているかどうか、食文化を世界無形遺産として次の世代に受け継いでいく体制・方法がしっかりと取られているかどうか」などを審査するという。日本の精神文化の根源をなしてきた、自然を尊重する伝統的な風習を守っていかなければならない。正月だけでも、おせち料理、雑煮、七草粥、鏡開きなど季節季節で多彩な食文化がある。日本の優れた食生活と食文化を、核家族化した次の世代にどう引き継いでいくのか。みんなで考える、いい機会である。


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2012・02・08 追伸
今日のネットに出ていた記事によれば、和食の独自性や世界的な和食ブームを考えると、期待は持てそうだ。ところが、国際的には料理を遺産登録するすることへの疑問の声も聞かれ、状況は厳しくなっているという。要は、民族や地域社会における重要性を、いかにうまく説明できるかどうかにかかっているようだ。

2013/10/27 「和食」が世界無形文化遺産に
日本がユネスコ(国連教育科学文化機関)に提案した「和食 日本人の伝統的な食文化」が世界無形文化遺産として登録されることになった。政府は日本人が自然に感謝しながら暮らし、そこから生まれた食習慣そのものを申請した。「食」は、生きるうえでの基本である。その文化が世界に受け入れられ、評価されたことは、民族として誇るべきことである。ただし喜ばしいだけではない。注意すべきはこの文化をどう次の世代へ、永く伝え引き継いでいくかである。