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File No.120109

去年の暮、テレビ東京系列で「宇宙ニュース」のスペシャル版として「2011年宇宙10大ニュース」が放映された。これはツイッターを通じて、反響の大きかったニューストップ10を順不同で発表したものである。その内容は次の通り。
古川宇宙飛行士・長期滞在ミッション 恐怖!空からの落下物体・スペースデブリ
世界のアルマ望遠鏡・ついに開眼 スペースシャトル30年の歴史に幕
日本の人工衛星・被災地で活躍 ノーベル賞受賞・謎の暗黒エネルギー
CERN・ヒッグス粒子発見の可能性 はやぶさ映画・空前の公開ラッシュ
ついに始まる宇宙旅行・1500万円旅の全貌 「宇宙ニュース」レギュラー・スタート
科学は、人類永遠のテーマである宇宙の謎解明に向かって、確実に歩を進めつつある。

中でも特に私が興味を持ったものをピックアップしてみよう。まずは「アルマ望遠鏡」である。これは南米・チリに建設された世界最大の電波望遠鏡である。構想30年、建設から7年を経て去年9月、16台の運用が始まった。今年には66台全部が本格運用される。その運用には日本からも、国立天文台などから多くの研究者や技術者が参加している。そもそもアタカマ砂漠がサブミリ波観測に適していることを見つけたのは、日本の石黒正人氏である。石黒氏の呼びかけに応じ、東アジア、北米、ヨーロッパの3グループが、最先端の技術を競う形で実現した。66台のパラボラアンテナが林立し、全体でひとつの巨大な望遠鏡として機能する。これまでにない解像度で宇宙を捉え、しかもこれまでの電波望遠鏡の100倍もの速さでデータを処理する。世界から大きな期待が寄せられているアルマ望遠鏡だが、ここでの観測で宇宙の謎が次々に明かされていけば、それは日本としても誇らしいことである。

もう一つはCERNから発表された「ヒッグス粒子」についての発表である。今年には、最終報告が出される予定のようだが、発表したということは、相当自信のもてるデータが取れたということでもある。これが確定すれば、素粒子すべてが明らかになる。「ヒッグス粒子」は、物質に質量を与えるという。ニュースなどでは「ヒッグス粒子」の海の中を、物質が動くときに受ける"動きづらさ"というように説明していた。何となく分かったような気がしているだけで、その実全く分かっていない。なぜ、物質によって質量が違うのだろうか。あるいは、宇宙空間での無重力と質量の関係はどうなんだろうか。要するに、重力と質量の関係がよく理解できていないのと、そもそも質量とは何なのかで混乱している。発表したCERNには、多くの日本の科学者が参加し、検出器には日本の最先端技術が使われている。アルマ同様、CERNでの発見にも日本が大きく貢献している。

10大ニュースには含まれていなかったが「惑星探査機・ボイジャー」のニュースも、私としては非常に興味深い。「宇宙ニュース」では、昨年8月25日に取り上げていた。その内容は「カリフォルニア大学の、エドワード・ストーン教授が、ボイジャーが太陽系を間もなく脱出すると発表した」というものだった。ボイジャーの太陽系脱出については、8年前ここの随筆で書いたことがある(※)。そのときは地球から約135億kmのところだったが、最近の発表では約180億kmまで遠ざかっている。このボイジャーには、人類の存在を知らせるディスクが搭載されている。そのディスクを作ったドレイク博士の言葉に、私は大いに感銘を受けた。「レコードは、我々の記念碑でもある。太陽が寿命を迎え地球をのみ込む。地球はいづれ確実に消滅する。そのときボイジャーは地球の記憶となって、永遠に宇宙に残るだろう。それが地球に文明が存在したことを伝えてくれる」。私と言うより人類の宇宙感を変えてくれる一言である。

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(※)2003/11/14に書いたボイジャーに関する随筆

ボイジャー1号 銀河系探査へ

米国の惑星探査機「ボイジャー1号」が、太陽系の外に出た可能性があると報道されていた。現在、ボイジャーは、地球から135億キロのところを飛行している。と言ってもピンとこないが、これは、地球と太陽間の距離の約90倍(90天文単位)に相当するそうだ。太陽圏の末端は、「太陽風」(太陽から放出される高エネルギー粒子の流れ)の及ぶ限界点ターミネーション・ショックと呼ばれている。ボイジャー1号は、今まさにそこを通過しようとしている。そのこともさることながら、私は、人間の身近な単位である26年という時間で、太陽系の外に出られるという事に妙に感動している。

当初、木星と土星探査を目的に、打ち上げられたボイジャー1・2号機は、設計寿命は5年だったそうだが、現在でも十分な原子力電池があり、機体に問題が発生しなければ、2020年まで観測が続けられるという。人間の作ったものが、いよいよ太陽系を超えて初めて銀河系に入る。未知の情報を手に入れるというエポック・メイキングな出来事に、関係者ならずとも、送られてくる情報は、期待をもって待たれるところである。更にボイジャーは、地球からのメッセージとして、多くの画像や情報も積んでいる。可能性の問題は別にして、地球外知的生命体との遭遇も合わせて期待したい。

2012/02/06 H2A大改造
日本の基幹ロケットH2Aを大改造する。打ち上げ成功率95%と信頼性は高いが、商業衛星の受注は苦戦している。日本のロケットは打ち上げの緯度が高く、欧州が打ち上げている赤道付近と比べると、静止軌道に移るときのエネルギーが多く必要になる。このため次のような問題があるという。
(1)打ち上げ可能な衛星の重さに限界がある
(2)軌道投入時の燃料消費で衛星寿命が数年短い
この問題点をどう改善するかと言うと
(1)2段エンジン活用:静止軌道に移るエネルギーを減らすため、燃焼停止と再着火ができる第2段エンジンを活用する。
(2)遠地点で分離:衛星を載せたまま慣性飛行で遠地点まで行き分離する。
(3)その他:タンクの塗装を白に変え、太陽熱で蒸発する燃料を抑える。
(4)その他:残りの燃料を効率的に使うために、タンク内の形状を工夫した。
こういう改善で、大幅な設計の変更をせず、性能は飛躍的に向上するという。
「世界に打って出る」というH2Aの今後に期待したい。


金星・月・木星の直列
2012/03/26 19時頃
雲ひとつないきれいな空に、
見事な天体ショウを見ることができました。