映画「ヒア アフター」を観て
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製作がスティーブン・スピルバーグ、監督がクリント・イーストウッド、主演がマット・デイモンと聞けば、それだけで観たくなる映画である。そのタイトルは「ヒア アフター」。意味は「来世」となっている。サンフランシスコ、パリ、ロンドン3人のストーリーが「死」をベースに淡々と進み、絡み合い、一本の糸に収れんしていく。2時間9分という長さを全く感じさせない。クリント・イーストウッド監督の手腕はさすがである。こういう映画は、観る人の評価が極端に分かれがちである。それは映画の投げかけるメッセージを、観客がどう受け取るかということでもある。人間は生まれた瞬間から「死」に向かって走り出している。"一寸先は闇"が幸いして、我々は日常何となく「死」から目を背けているが、「死」は確実に迫り、のしかかっている。私は以前「どうせ来るものなら、むしろ全ての人が"必ず一度だけ経験できる貴重な体験"だと考えるほうがよい。ものは考えようである」と書いたことがある。真正面から「生と死」を見つめるための、きっかけをこの映画はくれる。それが映画制作の意図するところである。

ここは東南アジアの海を臨むホテルの一室。フランスのテレビ番組のアンカーウーマンとして活躍するマリー(セシル・ドゥ・フランス)は、恋人との休暇を楽しんでいた。マリーはフロントにチェックアウトを告げ、旅行のみやげを買いにひとり出かける。その時、一気に押し寄せてきた大津波。のみ込まれたマリーは水中へ。音が次第に無くなり臨死体験をする・・・・。ここはサンフランシスコ。ジョージ(マット・デイモン)は、手を握るだけで死者と交信できるサイキックである。しかし「死者とつながる人生なんて意味がない」と、価値観を見直しリセットしたいと思っている。ところが意に反し兄からむりやり「これが最後だ。たのむ。大切な客なんだ」と客を押し付けられる・・・・。ここはロンドン。マーカスとジェイソンは写真館で写真を撮っている。二人は一卵性双生児の仲のいい兄弟。母親はアル中で福祉局から親権者としての能力を疑われている。必死で母を守ろうとする二人。宿題の終わっていないマーカスに代わって、母の薬を買いに出かける兄のジェイソン。ところが、不良に絡まれ逃げる途中、ジェイソンは交通事故に会い死んでしまう。「僕をひとりにしなで!」と泣き叫ぶマーカス・・・・。

クリント・イーストウッド監督は、マット・デイモンの魅力について「彼は全く芝居がかっていないところがすばらしいんだ。・・・・優れた俳優というのは・・・・とても自然でとてもさりげないものなんだ」と評価している。先日授賞式があった「日本アカデミー賞」で、最優秀主演女優賞に輝いた深津絵里さんも受賞のインタビューで「演じていることを意識しないようにしていた」と言っていた。相手役で最優秀主演男優賞の妻夫木聡くんのスピーチが実によかった。彼がこれまで悩みに悩み抜いて築き上げてきたものを、全身全霊で演じきったことが評価され、真から嬉しい気持ちが伝わってきた。それにしても吉永小百合さんは綺麗だ。凛とした和服姿が輝いていた。小百合さんは去年"文化功労賞"を受賞された。これまでにも舞台女優で受賞された方はいらっしゃるが、純粋な"映画女優"の受賞は小百合さんが初めてである。日本における映画という文化が、国によって認められた。邦画、洋画を問わず、これまでに多くの人々が映画にかかわりあい、文化を築き上げてきた。その象徴として吉永小百合さんが受賞したということである。

マーカスは、ジョージの交信によって兄からの言葉を受ける。「帽子をすぐ脱げ、もう二度とかぶるな。だから地下鉄で帽子を脱がせた。でも助けるのはあれが最後だ」。マーカスにとって帽子は"過去"の象徴であり、それを脱ぎ捨て母の愛を得て、未来に向かって強い心で生きていけという兄からのメッセージである。マリーは津波に飲み込まれて臨死体験をする。ジョージもまた臨死を経験し、そこから甦(よみが)えり、回復の途上で"霊能力"を得る。二人は"死後の世界"を垣間見るという同じ経験をし、死を正面から見つめてきた。臨死体験とは、あの世にたどり着く直前に、"生きる力""強い生命力"で現世へ引き戻されたということでもある。その二人が互いを理解し、共感し、お互いを必要としたとき、ジョージの脳裏に映ったのは、もはや過去でも、死者からの言葉でもなく、マリーとの笑顔に包まれた未来だった。二人がごく普通に、しっかり握手をすることでそれを表現したと言える。「ヒアアフター=来世」というタイトルではあるが、実は"命ある限り、現在という一瞬一瞬を精一杯生きていこう"という映画である。


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ヒア アフター
2011/02公開 /129分
製作総指揮: スティーブン・スピルバーグ
監督: クリント・イーストウッド
出演: マット・デイモン
セシル・ドウ・フランス

2011/02/22 タモリさんへ
 日本アカデミー賞授賞式で鶴瓶さんが言っていた。「ものすごくみんなに嫉妬されるんですよ。特にタモリさんに。それで間だを繋いだんですよ。タモリさんと吉永さんとでご飯を食べる日を。2回やったんですよ。今度3回目なんですよ。今度の3回目にタモリさんが泊りがけで行こうって言うてはるんですよ」。なッ!何ですと〜ッ!!それは聞き捨てならん!!言っておきますが、国民共有の財産を私物化するのは犯罪ですぞ。食事をすることくらいは目をつむりましょう。しかし、泊がけはいかんでしょう。泊がけは。
 ところで、まだまだ先のことだとは思いますが、もし「笑っていいとも」が最終回を迎えるとき、ゲストは小百合さんでどうでしょう。それが無理なら、せめて花束贈呈だけでも・・・・・。