携帯電話
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先日、携帯電話を買い換えた。こう言うと、携帯電話をかなり使いこなしている風に聞こえるが、実は単に電話の受発信だけで、他には何も使っていない。前の携帯電話は、約5年ほど前に購入したものだが、さすがにここにきてバッテリーがへたってきた。充電は常に完全に使い切ってからフル充電を心がけてきたが、最近は1〜2日で充電しないといけなくなってきた。たま〜に電話だけしか使ってなかったという事情はあるが、結構長く持ち堪えた。さて、新しいバッテリーに変えよう思ったら、これが結構高い。新しい携帯を買うのとあまり変わらないのである。そこで、どうせなら新しい機種にした方が気分もいい。と言っても、メールはおろか写真機能すら使っていない私にとって、多機能な携帯など無用の長物(ちょうぶつ)である。言っておくが、機能があって使いこなせてないのではない。最初からそんな機能は一切はずしている。私にとって携帯は、本来の機能である電話さえ出来れば十分なのである。ところが、21世紀は情報の時代、世の中はそんなおじさんの感覚で動いる訳ではない。

日本では、携帯などの移動通信機が1億台を突破した。単純に言えば一人一台持っていることになる。小学生の31%、中学生の57%、高校生の96%が持っているという。最近の携帯電話は、インターネットはもちろんゲームをはじめ、音楽をダウンロードして聞く、買い物をする、果てはテレビまで見れる、とすごいことになっている。それほど、携帯というものが深く浸透してきているということである。しかし、近時の報道を見れば、弊害も目に付く。まず挙げられるのが「出会い系サイト」だろう。有害な情報ほど興味が湧くものだ。西日本新聞(
2008/05/27)に「小中生の携帯使用制限」という記事が出ていた。これは、出会い系サイトなどによる犯罪が後を絶たず、有害情報から子供を守るため、教育再生懇談会が出した第1次報告である。報告要旨には「必要のない限り小中学生が携帯電話を持たないよう保護者、学校関係者が協力する。安全確保などの理由から持つ場合は、メール機能のない、通話やGPS機能のみの利用を推進する」としている。

弊害は情報の発信にもみられる。過日、文科省の実態調査では「学校裏サイト」が38000余あったことがわかった。しかも、これは氷山の一角にしか過ぎないという。推計だが30万以上あるとも言われる。この裏サイトでは、悪口、暴力的な発言などの個人攻撃が行われ、「いじめ」の温床になっている。「プロフ」では、書き込みが原因で、殺人未遂事件まで起きた。「匿名」ということが、過激な書き込みを助長しているようだ。最近、友人間のコミュニケーションにメールがよく使われている。一見、良さそうにみえるメールだが、どうも実態は違っているように聞く。仲間の誰からかメールが届くと、間髪(
かんはつ)を容()れず、返信しないといけない。少しでも遅れると、あの人は遅いということになって、そのうち仲間からはずされる。だから、四六時中携帯を離さない。真夜中の12時だろうが、来たらすぐ返信する。こうなると本来の電話機能から離れて、恐怖ですらある。こういうメールの現状や出会い系サイト、学校裏サイトなどと考え合わせれば、教育再生懇談会の報告もやもうえない。

情報を適切に判断する能力の無い子供たちを獲物にしているのは、一握りの闇社会である。学校裏サイトに関するアンケートでは「書き込んだことがある」と答えたのは、わずか3%だった。ほんの一握りの行為が、小中学生全員に携帯を持たせない方向に向わせている。政府は2006年ユビキタスネットワーク社会の実現を目指すとして「IT新改革戦略」を策定した。世界の中でも最先端のIT国家を目指すと宣言した日本は、ますます情報格差がなくなり、その恩恵を誰もが享受する社会になっていく。携帯小説なる新しい文化も生まれている。このような社会の大きな流れの中にあって、一握りの者たちのために、子供たちが流れとは反対の方向に向かわざるを得ないのは、いかにも残念なことである。しかも、昨日まで守られてきた子供たちが、社会に出たとたん、ダムが決壊したかのような情報の洪水の中に放り込まれるのである。以前私は「即戦力の消費者を育てることが求められる」と書いたことがあるが、遮断し保護している間の情報リテラシーの教育こそが、ますます重要になってくる。誰もがIT活用による豊かな生活を楽しむためには、“負”の側面の克服が喫緊の課題である。

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