サラリーマン根性

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北朝鮮の人が、中国の日本総領事館に亡命を試みた。一旦領事館の中に入ったものの、中国の警官に捕らえられた。領事館のマニュアルは、亡命者を助けるどころか、追い返せということのようだ。もし北朝鮮に強制送還されれば、処刑が待っている。亡命を試みた女性は、文字通り命がけだった。今回はたまたま映像が全世界を駆け巡ったので最終的には目的が達成されたが、「事なかれ主義」の日本を浮き彫りにした。日本には「サラリーマン根性」という言葉がある。働く日本人の70%はサラリーマンである。会社に依存し、会社での自分の立場を守らんがために、大きなエネルギーを費やし、大過なく定年を迎えることが人生最大の目的となる。今回の事件は、日本の国そのものの体質を現した「サンプル」みたいなものである。

昨今、一般大衆をないがしろにした事件は枚挙に暇がない。輸入肉を国産牛肉に偽装して買い取らせる偽装工作をしたY食品の事件もそうである。関西ミートセンター長は、「在庫が山のようになって不安になった」と動機を話している。社長は「センター長の独断」と釈明し、会社側としては「組織的に協議した事実はない」と公式発表した。しかし実態はというと、本社分の偽装を部下から相談され、本社の担当部長は黙認していたそうだ。

発覚した事件を見るに、大体においてこんなことであろうか。
 ある一つの事柄を核にして、一つの小さな社会が形成される。その社会には当然サラリーマン根性が存在する。正しい倫理観はもっているが、「効率向上」とか「営業成績向上」といった大儀名分で打ち消し、現場だけの常識が出来上がる。毎日々々機械的に処理する事が いつしか心理的な抵抗も消してしまう。上部組織は、当然分かることであるが、あえて指摘せず暗黙の了解となる。この事実を正しい倫理観をもって見ている人も、具体的行動は起こさない。なぜなら、サラリーマンであるから「火中の栗を拾う」ことや「猫の首に鈴をつける」などもっての他だからである。井上陽水の「傘がない」という歌ではないが、直接自分に利害関係が発生しなければ、どんな極悪非道だろうが大した問題ではないのである。

しかしながら、基本を逸脱したことは何時しか破綻する。今回の亡命事件のように衝撃的ではないにしても、一つの事柄が事件として表面化し、ごく一部の閉鎖的社会を飛び出して、その真実が公になった時、どうあることが正しいのか、何が正しいのか、本来あるべき正しい倫理観が見えてくる。期限切れ牛乳の再利用が発覚し、社長が引責辞任した雪印乳業は、先日新聞に大きく広告を出した。内容は大体次のようなことである。

基本方針は、工場に入るすべてを、衛生管理の対象とする
牛乳の製造工程において、独自の「3段階品質検査」を実施している。
独立した「商品安全監査室」を設け、抜き打ちで検査を行っていく。
自分の受け持ち工程のすぐ先にお客様がいらっしゃる。常にその気持ちで、製品づくりを続ける。
乳は、私たちの原料ではなく、酪農家の皆様からお預かりする生乳。その“自然のいのち”を、お客様にお届けする“透明なパイプ”にならなければ、と自覚を新たにした。

すなわちこれこそが、一般大衆が下した判決に応えるべく、襟を正した企業倫理である。少なくともこの決意が、時が経つにつれまたもや意識がうすれ、サラリーマン根性に汚染されることのない様、祈るばかりである。



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2011・12・08 オリンパスの損失隠し問題・・・「サラリーマン根性の集大成」
オリンパスが、バブル期の投資失敗などの損失1300億円を隠し、粉飾決算をしていた問題で、第三者委員会が調査報告書を発表した。報告書によれば、その原因は、トップ主導で監視機能が働かなかったこととし、次のように厳しく断罪した。
経営中心部分が腐っており、悪い意味でのサラリーマン根性の集大成。
歴代社長のコンプライアンス意識に問題があった。
イエスマンが多く、取締役会は形骸化。
監査法人も、責務を十分果たすことができなかった。


平成19年(2007)1月18日 西日本新聞
雪印は「行動基準」厳格化
雪印乳業は17日、2000年の集団中毒事件や02年の子会社の牛肉偽装事件を受けて制定した「雪印乳業行動基準」を、初めて改定する方針を明らかにした。法改正などに対応するためで、食中毒事件の発生日である6月27日に発表し、法令順守の取り組みをあらためて徹底する。
 不二家の期限切れ原料使用問題について、高野社長は「コメントする立場にはない」と断った上で、「(雪印の場合)自分たち中心の考え方が、おごりにつながった」と指摘。「あらためて食品の安全、安心の重さを感じている」と述べた。

追伸:平成19年(2007年)1月12日 西日本新聞
不二家 埼玉工場・・・県 立ち入り、操業停止指導
管理記録、衛生手引きなし
 大手菓子メーカー「不二家」の埼玉工場が消費期限切れの牛乳を使った洋菓子を出荷していた問題で、同工場には原料の管理記録や安全・衛生マニュアルがなかったことが11日、食品衛生法に基づく県の立ち入り検査で分った。法令違反には当たらないが、国は1983年、業界団体に菓子製造の衛生規範を示し、原材料の管理について記録するように求めていた。同県は「安全対策が極めてずさん」として、問題の経緯や改善策を求めるとともに、安全体制が確立するまで工場を操業しないよう指導した。
 県によると、埼玉工場には原料メーカーによる牛乳の納入記録は残っていたが、工場が洋菓子を製造する際の原料の種類、量、消費期限を記録した書類などはなく、安全・衛生対策を従業員に指導するためのマニュアルも存在しなかった。同工場は創業開始以降、こうした書類やマニュアルを作成したことはないという。
 11日の立ち入り検査は朝霞、川口両保健所の職員計4人で実施。県には同日までに、不二家の洋菓子による健康被害などの報告はないという。