映画「ニューオーリンズ・トライアル」を観て 随筆のページへ

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FileNo.040204
「あの娘は ルイジアナ・ママ、やって来たのは ニューオーリンズ 髪は金色 目は青く 本物だよ デキシークイン マイ ルイジアナ・ママ フロム ニューオーリンズ」若い人には何のことだか分からないだろうが、私の若いころ流行ったアメリカのポップス「ルイジアナ・ママ」である。デキシーランド・ジャズでおなじみ、アメリカを感じさせ、懐かしい響きのあるニューオーリンズが今回の舞台だ。この映画の監督フレダーは、原作で設定されているミシシッピー州ビロクシーをニューオーリンズに置き換えた理由についてこう言っている。「ニューオーリンズ自体が、この映画のキャラクターだからだ。この街にはふたつの特徴がある。美しく、雄々しい建築物な並ぶ一方、奥にダークな部分を秘めている。そして、このふたつの特徴は、物語の登場人物をも反映している。この映画の撮影には、まさにパーフェクトな場所だ」

監督が意図した光と影を演じる俳優として、大スター二人がキャスティングされた。「フレンチ・コネクション」でアカデミー主演男優賞に輝くジーン・ハックマン、「クレイマー・クレイマー」で同賞を受賞したダスティン・ホフマンの二人である。ジーン・ハックマンは、手段を選ばない非情さで、数々の裁判に暗躍してきた伝説の陪審コンサルタントを、一方のダスティン・ホフマンは、正義に燃える高潔な原告側弁護士を演じる。謎の女マーリーを演じるレイチェル・ワイズは二人についてこう語る。「ダスティンのすごいところは、あれほどのキャリアがあって、すでに伝説的な存在になっているのに、誰より必死に仕事に打ち込むの。ジーンの方は、おそろしいほど存在感があって、何もしていないように見えるのに、彼の前に立つとそれを感じるの」。フレダー監督がこの映画を創り上げるのに真に適役であったことは映画を見て納得した。

この映画はアメリカを象徴する「訴訟社会」と「銃社会」を背景としている。冒頭にも述べたように、いかにもアメリカの臭いのするニューオーリンズを舞台に、名優二人が繰り広げる頭脳の戦いは、観るものを虜にする。この映画の特徴は、「陪審員の評決を買収する」というかってない視点で描いていることである。もう半世紀も昔、同じアメリカが創った「怒れる十二人の男」でみせたあの社会正義とは随分違っている。選出された陪審員は、日当16ドルと安い弁当で、いかにも市民の義務として出頭しているのだが、この民事訴訟は、マスコミを通じて全米が注目している裁判である。銃の訴訟は、かつて一度も原告の勝利はなかった。製造物責任を問う原告に対し、銃に関する法律「修正第2条」が大きく立ちはだかる。アメリカでは1000社もあるという銃器メーカーは、敗訴になれば死活問題である。あらゆる手段を駆使し、何としても勝たねばならない。

そこに登場するのが、伝説の陪審コンサルタント、ランキン・フィッチ(ジーン・ハックマン)である。陪審員選任こそが勝負の分かれ道、重要なポイントとなる。選任の時間までにハイテクを駆使し、出来うる限りのデータを集め、積み重ねてきた経験を基に分析し次々と指示を出す。その激しいスピード感が心地よい。一方、民間が持つ銃は2億丁をこえ、銃による死者は年間3万人、障害者10万人という現実に、原告側の正義派弁護士ローア(ダスティン・ホフマン)は情熱を燃やす。勝訴し「法」を改正する事が出来れば、銃犯罪の軽減につながることは間違いない。裁判の光と影、表と裏で激しい攻防が繰り広げられる。フィッチとローアがトイレのなかで激論するシーンは圧巻である。翻弄される陪審員の評決はどうなるのか。成熟した訴訟社会が下した判断はどうだったのか。まだ上映中の映画なので詳しくは書けないが、少なくとも神聖な法廷を金で買えるほどアメリカ社会は病んではいないようだ。


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STORY
監督:ゲイリー・フレダー
出演:ジーン・ハックマン、 ダスティン・ホフマン
事件は、月曜日の朝に起こった。ニューオーリンズの証券会社に、リストラされた元社員が乱入。銃を乱射して11人を殺害し、5人に重傷を負わせたすえ、自らの命を絶ったのだ。この2分たらずの犯行によって、セレステ・ウッドは最愛の夫ジェイコブを失った。やり場のない悲しみと怒りを抱えた彼女は、凶器として使われた銃メーカーの責任を問う民事訴訟を起こそうと決意。地元のベテラン弁護士ウェンドール・ローア(ダスティン・ホフマン)に、代理人を依頼する。
2年後。全米中が事の成り行きに注目する中、いよいよセレステの訴訟が地裁にかけられることになった。被告のヴィックスバーグ社にとって、これは絶対に負けられない闘いだった。もしもこの裁判に負ければ、全国で同様の訴訟が起こり、想像を絶するほど巨額の賠償金を支払うハメに陥るからだ。そして、その脅威は、ヴィックスバーグ社のみならず、武器業界全体に及ぶものとなる。
この非常事態に際し、連合軍を組んだ銃器メーカーの経営者たちは、ひとりの男を自分たちの陣営に雇い入れた。その名は、ランキン・フィッチ(ジーン・ハックマン)。彼は、あらゆる手段を駆使して陪審員の評決を勝ち取ることで知られる伝説の陪審コンサルタントだ。


注)アメリカ合衆国憲法 権利章典
  修正第2条 武器を所有し、携帯する権利
    よく統制された民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、
    国民が武器を保有し、かつ携帯する権利は、これを侵してはならない。