映画
「奥様は魔女」
を観て

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File No.050923

共演のウィル・フェレル(ジャック役)にして「美しい女性なのは知っていたけど、目の前で見る彼女は現実離れしている」と言わしめた。そんなクールビューティーのニコール・キッドマンが「インタープリター」とは打って変って、明るい笑顔を見せてくれる。60年代の人気テレビ番組「奥様は魔女」をモチーフにした全く新しいストーリーの映画である。何でも叶えられる魔女の世界から、普通の生活と普通の恋がしたいと人間界に下り立ったイザベル(ニコール・キッドマン)。父(マイケル・ケイン)に「魔女はあこがれなのに・・・」と言われるが、「もう魔法は封印したの」ときっぱり。だが言ってるそばから、指をパチンと鳴らしてレストランの朝食サービスの時間に時計を戻してしまう。「これは例外」「これが最後」なんて言い訳をしながら、ついつい魔法を使ってしまうニコール・キッドマンが可愛い。ニコール・キッドマンって、素顔は“明るくて、楽しい”女性なのかもしれない。

落ち目の俳優ジャック(ウィル・フェレル)は、「奥様は魔女」のダーリン役で復活をはかろうとしていた。自分の引き立て役として無名の新人女優を探しているところに「ピコピコピッ」とイメージ通りに鼻を動かすイザベルに出会う。オーディションに合格したイザベルは、いよいよ撮影現場へ。この映画では、スチュエーションコメディの撮影現場が詳細に描かれている。私は40年前、客席から聞こえる底抜けに明るいあの笑い声にも、アメリカを感じたものだ。「あ〜、こうして撮影してたんだ」と実によく分った。魔女であることを隠したまま、恋に落ちるイザベル。魔法を使ってジャックを振り向かせても、そんなものは本当の恋ではない。ジャックのパーティで踊る二人。イザベルの心は揺れ動く。二人が踊る曲は、我々にはなつかしい「LOVE」。この映画では随所に、なつかしい歌手や曲が挿入されている。夜景の見えるレストランではシナトラ、エンディングにはサッチモなど、こんなところも楽しみなところだ。

魔女であることを隠したまま、普通の恋を掴みかけたイザベル。しかし、これでは本当の自分を愛してくれていることにはならない。ついに決心して、魔女であることを打ち明ける。あまりのショックに、ジャックの心は離れていく。撮影現場の家のセットの前でたたずむイザベル。だが、イザベルを忘れられないジャック。魔女でもかまわない。人間界から去った魔女は100年戻ってこれない。早く止めないと。撮影現場に駆けつけるジャック。セットだった家は“ふっ”と本物の家に変わる。イザベルを抱きかかえて、家に入るジャック。観終わってよく考えてみれば、このエンディングからが昔のテレビのスチュエイションである。仮にこの続きをテレビ番組にするなら、冒頭の中村正さんのナレーションはこんな風だろうか。「奥様の名前はイザベル。旦那様の名前はジャック。ごく普通の二人は、ドラマチックな恋をして結婚しました。そしてただ一つ違ったのは、奥様は魔女だったのです」

50年代後半から大量にアメリカのテレビ番組が放映された。「奥様は魔女」の日本での放映は、66年からである。その前にはやはり同じコメディで「アイ・ラブ・ルーシー」という番組があった。いづれも番組を通して、底抜けに明るく裕福なアメリカを感じた。戦後生まれの私に、敗戦の記憶などない訳で、ただひたすらアメリカ文化を受け入れた。それはまさに、渇いた砂にアメリカ文化という水がしみ込むようであった。大きな家、芝生の庭、リビングには大きなソファーがあり、ダイニングキッチンには大きな冷蔵庫、テラスで食事、何もかもあこがれの的だった。ジャック・レモン、ウォルター・マッソーの「おかしな二人」で見せた、アメリカ独特の軽妙な会話にも魅かれたものだ。日見子に、当時どんな番組が好きだったか聞いてみると「サンダーバード」「逃亡者」「ベン・ケーシー」・・・次々と出てくる。「もはや戦後ではない」と言われた時代から、高度経済成長の時代へ。私は本当にいい時代とともに生きてきた。

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STORY
監督:ノーラ・エフロン
出演:ニコール・キッドマン、ウィル・フェレル、シャーリー・マクレーン
ロサンゼルスの澄み渡る青い空。魔女のイザベル・ビグロー(ニコール・キッドマン)が、人間の世界に舞い降りてきた。魔法を使わないこのこの世界で、普通の生活を送り、普通の恋を見つけるために・・・。彼女の父ナイジェル(マイケル・ケイン)の心配をよそに、人間界で暮らし始めたイザベル。普通の生活、普通の仕事、そして普通の恋。何一つ手に入らない彼女の前に、ひとりの男性が現れた。今は落ち目の元トップスター俳優、ジャック・ワイヤット(ウィル・フェレル)だ。1960年代のTVドラマ「奥様は魔女」のダーリン役で復活を図りたい彼は、自分を目立たせる奥様役として、無名の新人女優を探していた。そして彼は、サマンサを演じたエリザベス・モンゴメリーとよく似た鼻をもつ、イメージ通りのイザベルを見つけ「TVの中で僕の妻になってくれ」と出演を申し込むのだった・・・。
昔のテレビの「奥様は魔女」では、冒頭は中村正さんのナレーション、サマンサは北浜晴子さん、ダーリンは柳沢真一さんがアテレコしていた。中村正さんのナレーションは見事だったし、エリザベス・モンゴメリーやディック・ヨークの吹き替えも、まるで本人が日本語をしゃべっているかのようだった。ひょっとすると、当時の日本に外国ドラマがこれほど受け入れられた最大の貢献者は、「声優」の人たちだったのかもしれない。