月周回衛星 かぐや 随筆のページへ

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FileNo.070921

9月14日(2007年)、日本の基幹ロケット「H2A」で月周回衛星“かぐや”が打ち上げられた。順調にいけば10月4日には月周回軌道に乗る。「地球の出」の映像が送られてくるのを楽しみにしている。美しい景色のことを「花鳥風月」というが、今回は「花鳥風地球」である。“かぐや”というネーミングは、一般公募で決まったものだ。“かぐや”が一番多かった訳だが、2位も「かぐやひめ」3位は「うさぎ」だったという。月の美女“かぐや姫”は、人間の手の届く存在ではなく、月にまた帰っていく。手の届かない“あこがれの美”を月に求めた発想に夢がある。日本人にとっての「月」は、古来より「お月さま」なのである。今回のネーミングは、この発想が1000年の時を経てなお支持され続けているということになる。ところが今回の目的は、ネーミングとは裏腹に、月全体の本格的な観測である。「夜目、遠目、傘のうち」とは女性が美しく見えることを言ったものだが、“かぐや”は夜目、遠目どころか“えくぼ”を“あばた”にするために旅立った。15の観測機器、2基の子衛星と共に1年かけて元素、磁場、重力などの分布を調べ、月の謎解明に迫る。

月の起源についてはいくつかの説がある。双子説、捕獲説、親子説、衝突説などである。月の石を分析した結果などから、微妙ではあるが「衝突説」が有力らしい。地球より一回り小さい惑星が衝突した際に飛び散った物質によって月が出来たという説である。私としては「親子説」を支持したいところだ。これも、この一年以内に解明されるだろう。世界各国がいろいろな思惑で、今後月へロケットを打ち上げる。まず中国が今年中に打ち上げる予定である。“かぐや”のデータを分析するために種子島に来ていると言う。今年7月には、上海の航空宇宙展で、月面探査車(無人)の模型も展示していた。もし中国の最終目的が“資源”なら、変な中華思想を持ち込まなければいいがと懸念が先に立つ。インドも来年打ち上げる予定だ。当然ロシアやアメリカも打ち上げる。1969年のアポロ以来約40年もの間、本格的な月の探査はなかったのに、ここにきてまるで交通整理がいりそうな勢いである。アメリカは、国際宇宙ステーションが2010年には完成予定なので、次は月面基地をつくっていよいよ火星へという構想だ。

火星と言えば、アメリカの火星探査車スピリットとオポチュニティの活躍に目が離せない。2004年から当初の耐用時間3ヶ月をはるかに超えて3年半も頑張っている。スピリットは、車輪の一つが故障してひきずった跡から、水の存在を示す新たな証拠が発見された。“怪我の功名”である。もう一つの探査車オポチュニティの活躍は、あたかも連載小説を読んでいるかのようだ。オポチュニティは、ビクトリアクレーターの深い場所を探査しようとしている。クレーターに入ったら戻れないかもしれない。しかし、入れば貴重なデータが得られるかもしれない。究極の選択だが、やはり未知への探求心が勝ったようだ。一番ゆるやかな斜面を選んで下りることになった。ところが、ここで一ヶ月にわたる砂嵐に襲われる。太陽をさえぎる砂嵐に、太陽電池の深刻な危機。やっと治まっても舞い上がった砂が太陽電池に降り積もる。これを幸運にも風が吹き飛ばし、驚異の回復をみせ再び動き出したオポチュニティ。9月11日についに、クレーターに入った。火星劇場の方も目が離せない。

第一段エンジンに三菱のマークがついた“かぐや”は、民間企業である三菱重工業によって打ち上げられた。ロケット打ち上げの民営化である。今後はビジネスとして、政府からの受注に、商業衛星の受注が加わる。安定受注の為の最低条件は“安いコスト”と“打ち上げ成功率(信頼性)”だが、成功率のほうは90%(H2A)を超え、世界のトップクラスだから問題はない。コスト面も民営化効果でかなり安くなり、国の支援があれば、何とか世界と肩を並べるところまできている。ところが、もう一つ問題がある。打ち上げ可能な時期である。ビジネスである以上、いつでも打ち上げ可能でなければ受注を逃してしまう。ところが、種子島周辺海域の漁業権の関係で、打ち上げ可能な日数が年間190日しかない。安定経営のために、どうクリアするか難しい問題だ。三菱重工は、官民共同で国産ジェット(MRJ)の開発も進めている。YS-11以来の国産機であり、日の丸ジェット旅客機(ホンダもジェット機を開発)である。こちらも世界に売り込んでいく訳だが、ロケットビジネスと共に日本の技術の高さを世界に示すチャンスでもある。

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宇宙科学研究本部ホームページより
かぐやのミッション機器
観測項目 観測機器 観測内容
元素分布 蛍光X線分光計 太陽からのX線を受けて月面から放射される二次X線を観測し、月表面の元素(Al、Si、Mg、Fe等)の分布を調べる
ガンマ線分光計 月面から放射されるガンマ線を観測し、月表面の元素(U、Th、K、H等)の分布を調べる
鉱物分布 マルチバンドイメージャ 月面からの可視近赤外光を9つの波長バンドで観測し、鉱物分布を調べる
スペクトルプロファイラ 月面からの可視近赤外光における連続スペクトルを観測し、月表面の鉱物組成を精度よく調べる
地形・
表層構造
地形カメラ 高分解能(10m)カメラ2台のステレオ撮像により、地形データを取得する
月レーダサウンダー 月面に電波を発射し、その反射により月の表層構造(地下数km程度まで)を調べる
レーザ高度計 月面にレーザ光を発射し、その反射時間(往復時間)から、高度を精密に測定する
環境 月磁場観測装置 月周辺の磁気分布を計測し、月面の磁気異常を調べる
粒子線計測器 月周辺における、宇宙線や宇宙放射線粒子、および月面のラドンから放射されるアルファ線を観測する
プラズマ観測装置 月周辺における、太陽風等に起因する電子およびイオンの分布を測定する
電波科学 VRAD衛星から送信される電波の位相変化を測定し、希薄な月電離層を観測する
プラズマイメージャ 月軌道から、地球の磁気圏およびプラズマ圏を画像として観測する
月の
重力分布
リレー衛星中継器 月裏側を飛行中の主衛星の電波をリレー衛星で中継する。これを地球局でドップラ計測し、主衛星の軌道の擾乱を観測することにより月裏側の重力場データを取得する
衛星電波源 リレー衛星およびVRAD衛星に搭載するS、X帯電波源を対象に、地球局による相対VLBI観測を行い、各衛星の軌道を精密に計測する。これにより月重力場を精密に観測する(VLBI:超長基線電波干渉計)
精細画像 高精細映像取得システム 地球および月のハイビジョン撮影を行う


2009/06/12 「かぐや」任務を終え月面に落下
 H19/09から高度100kmで周回し、月面の詳細な状況をはじめ、多くの観測を終えた「かぐや」が11日月面へ衝突した。観測は去年10月には終了し、その後高度を徐々に下げていた。数日前には、高度15kmという超低高度からの迫力の映像をJAXAで公開していた。衝突場所は、コントロールされ予定通りの地点に落下したという。落下地点には5〜10mのクレーターができたというから、将来日本が有人月探査をするときには、その映像が届くかもしれない。




2015・10・25 NASA 月軌道に新宇宙基地構想
NASAは月軌道上に、宇宙ステーションを建設する構想を発表した。火星有人探査の中継点とするためである。月軌道上に打ち上げた無人探査機に、居住棟などをドッキングさせ、順次規模を拡張していく。20年代終わりには、数人が長期滞在できる居住空間をつくるという。火星探査時には、大型ロケットでまず月ステーションまで行き、そこで燃料や食糧を補給し火星を目指す。火星有人探査は、30年代の実現を目指している。