映画産業を支える職人たち
映画のページへ

随筆の頁へ

トップページへ

              FileNo.031013

先日テレビの特集で「予告編つくりのプロたち」という番組が放送されていた。最近は予告編を専門につくる制作会社があるそうだ。映画を制作した会社が、制作の意図を前提につくるより、予告編制作専門の会社が、客観的な立場で創ったほうがいいと言う。まずどう創るかの基本線は、その劇場に来てくれる客のタイプを見て決めるそうだ。その客層に合った予告編を創るということは確かに最も重要な事である。日本はドラマ性のものが好まれるということから、サスペンスものもドラマチックな予告編に変身することもあるらしい。いづれにしても、視聴者に映画の内容が充分伝わらないといけない。説明になってはいけないし、分かりにくいのでは意味がない。そのへんのサジ加減に職人の感覚が要求される。

映画を支える大切な仕事は、他にもいろいろある。邦題名をどう付けるかもその一つであろう。宣伝部署の非常に重要な仕事である。映画のプロモーション会社の人は「流行語や新聞の見出しになれば大成功」と言っている。例えば今回の「リーグ・オブ・レジェンド」の原題は「The League of Extraordinary Gentlemen」である。直訳すれば「異常な紳士の同盟」ということになるが、これでは何の迫力も魅力も感じない。邦題はサブタイトルの「時空を超えた戦い」を含めてなかなかファンタスティックだ。「007危機一発」も原題の「ロシアより愛をこめて」よりインパクトがある。簡潔で耳から入った時の感覚の良さが重要である。

映画を支える重要な仕事に「日本語字幕」というのもある。この世界で有名な人に戸田奈津子さんがいる。彼女の話は非常に興味深い。例えば「映画を見終わった後、全く日本語を読んだという意識がないような字幕でなければならない。登場人物があたかも自分の分かる言葉で語ったかのような感覚を持ってもらうことが大切」。つまり「存在感のない字幕」こそ優れた字幕であるという。更に「マシンガンのごとくしゃべる英語をそのまま直訳していたのでは、字幕が画面いっぱいになる。映画を見ている人は、99%映画を見ている訳で、字幕は1%しかみていない」観客の1%の意識に映画の全てを理解してもらう内容を凝縮する。これぞ職人の技以外の何ものでもない。

少し待てばビデオで見ることが出来る客を、いかにして世界一料金の高い日本の映画館に足をはこばせるか。映画制作とは別の次元で職人たちが凌ぎを削る。私は、新作映画をテレビの予告編で知り、どの映画が今ヒットしているのかをテレビ番組のランキングで知り、映画のヒットを賭けたプロ集団の存在を、テレビの特集番組で知った。新しいビジネスとしての映画産業を支える人たちが、あらゆるメディアを使って我々の視覚聴覚に働きかけてくる。彼らの職人技が我々を映画へといざない、数時間の別世界を過ごさせてくれるのである。

映画のページへ 随筆のページへ トップページへ

平成16年2月18日読売新聞
九州の映画館

日本で映画がはじめて上映されたのは1903年(明治36年)、東京・浅草だった。九州では4年後の1907年に長崎市で「電気館」が開業、1911年には熊本にもお目見えした。当時、長崎と熊本に行政機関が多かったことも背景と見られる。

日本映画製作者連盟(東京)によると、2003年の映画公開本数は、前年より18本少ない622本だったが、「踊る大捜査線」「ハリーポッター」などのヒット作品に恵まれ、入場者数は前年比1.0%増の1億6234万人、興行収入は3.3%増の2032億5900万円と好成績を残した。

九州(沖縄含む)・山口の映画館数は昨年末現在で346館(全国13%)。うち福岡には4割強の142館が集中している。東京、愛知、大阪、神奈川に次いで5番目に多い。スクリーンが複数ある複合映画館(シネマコンプレックス)の台頭で、10年ほど前から急速に増えたが、近年は飽和状態にある。

福岡市興業協会の岡部章蔵会長は「家庭用ビデオやDVDの普及で映画離れが懸念される。しかし、映画をビデオで見て育った世代が、大画面の迫力を求めて映画ファンになる現象も起きている」と話している。